風返し峠の向こう側 〜 茨城県道42号線

突然ですが皆さん、酷道とか険道とかいう言葉はご存知ですか?車が通行するにはおよそ向いていないような悪条件の国道・県道をもじって、それぞれ酷道・険道と言うそうです。自転車乗りが使う独特の用語に激坂という言葉がありますが、それの自動車版みたいなものですね。

突然こんな話をしたのには勿論理由があります。筑波山麓に住むロード乗りに聞いたお話。麓に住んでいるだけあって、筑波山近辺の道路はほとんど知り尽くしているとか。但し、車での話。

そんな筑波山麓の道の中で、二度と走りたくないのが茨城県道42号線の、八郷〜風返し峠間だとか。特に風返し峠付近では、傾斜はきついし、車幅も狭いので車のすれ違いもどちらかがバックしないと難しいし、道の両側に側溝があるわで、「こりゃ、車が走る道じゃないな」と途中で諦めて引き返したとか。以前に紹介したつくば道も、こちらに比べるとまだマシな方だそうです。

県道なのに「車が走る道じゃない」って時点ですごいですね。WikiPediaから引用しますと、もし本道が国道だったら間違いなく「酷道」と言われるだろう箇所である。との事。そんなに楽しい場所(※)だったら是非走ってみるしかない、と心に決めて、日々鍛錬を重ねてきました。

※見ただけでもはや笑うしかないような、とんでもない坂道の意味。「果たして自転車を押せるような道なんだろうか?違っていたら楽しいなぁ〜」という、常人には理解しがたい「楽しさ」の事です。

ところで出発点をどこにするか?ですが、表不動や裏不動のように「関東ふれあいの道」の道標があるわけじゃなし、休憩&補給も兼ねて県道42号線の八郷側にあるセイコーマートを出発点とする事にしました。

今回のルート

まずはセイコーマートへ

つくば市内からセイコーマートへ行くルートはいくつか考えられますが、最も負担の少ないであろう不動峠経由にしました。山越えしないで一直線に行ける道があればベストなんですけど・・・まぁ、しょうがないね。

できるだけ体力と足を温存するために、普段よりも1段軽いギアでこれまで以上にゆっくりゆっくりと時間をかけて。普段は立ち漕ぎする最後の10%勾配も、今日ばかりはセンター&ロウ(最近はこれも封印してた)でシッティング。体力を温存したので不動峠の頂上ではどうにか休む事もなく裏不動へ。途中、茨城県フラワーパークの外にある売店でアイスクリームを堪能しつつ、いよいよセイコーマートに到着です。

茨城って恵まれているかも?

ここで水分&食事補給。すると都内にある某有名大学サイクリングクラブのメンバー10人くらいがやって来ました。聞けば土浦まで輪行し、その後同じ常磐線の岩間駅まで走って帰る予定だとか。この区間って別にサイクリングロードがあるわけじゃなし。ただの一般道を走るだけのためにわざわざ日帰り輪行とは驚きましたが。ただ、考えてみれば都内にこんなに走りやすい道なんてないでしょうし、都会で自転車するのって大変なんだなぁ、と改めて思いました。逆に言えばそういう面では茨城って恵まれているよね。

スタート

セイコーマートから風返し峠までの道ですが、最初はごくゆるやかな勾配です。途中には果樹園がちらほら。やがてはっきりと分かるくらいの勾配に変わってきます。勾配はさほどでもないですが、スタート地点から長々と続くだらだら坂。日差しを遮るものもなく、結構汗をかきました。ただ、このあたりまでは道幅も広く片側一車線の立派な道路。この道が険道であるなんて、この時点では想像もつきません。

まだまだ緩やか

いよいよヒルクライム・・・かな?

やがて直線の道は終わり。この先幅員減少の案内板が出現。以降は道幅もやや狭くなり、曲がりくねった道が続くようになります。

幅員減少の案内板&ワインディングロード

更に大型車通行止の案内板。だんだんとこの道の険しさやら厳しさやらが伝わってきます。

大型車通行止の案内板

久しぶりのインナーギア

いよいよヒルクライムの予感。気を引き締めつつ、体力や足を温存するために、満を持してフロントインナーへとチェンジ。

インナーギアを使うのは本当に久しぶりです。表裏不動やら不動峠からつつじヶ丘までの道は、フロントインナーは勿論、リアロー(1速)も封印していました。速度は出ないし足は疲れるしで辛いだけなんですが。しかし、それもこれもこれから訪れるハズの激坂に向けての準備です。「この程度の坂道でインナーなんて使っていたら、到底42号線の激坂登坂は無理」と確信していたので。

まだまだ気分はサイクリング♪

途中で見通しのよい箇所があったので、景色を堪能。ぱっと見の標高からはまだまだ先は長いぞと思うと同時に、秋晴れのこの季節、自転車にとってはよい時季になったなぁと実感。写真では分かりにくいですが、遠くの景色もよく見えます。

八郷側の風景

紫寶水

更に登ると湧き水が。嬉しい事に道端に若干のスペースも広がっています。せっかくなので休憩する事にしました。案内板を見ると「紫寶水」と書かれていました。

湧き水

紫寶水

紫寶水。由来がわかりませんので勝手な想像に過ぎませんが。筑波山の別名は紫峰(しほう)。それより沸き出る寶(たから)の水という意味で、紫峰(しほう)と紫寶(しほう)をかけたのでしょうかね?

何はともあれ、その沸き出る水で顔やら腕を洗いました。冷たくてとても気持ちよかったです。結構上がってきた体温もクールダウン&気分もリフレッシュ。念のため足も少しだけお休み。

などとのほほんとしていると、登っていた車が急停車。若いカップルが降りてきて「ここの水、美味しいですか〜?」見ると手には空のペットボトルが2本。

私が「この水は飲めます、などとはどこにも書いてませんから、怖くて飲んでません。水は麓のコンビニで補給していますから」と言うと諦めて去っていきました。

それにしても不思議なカップルでした。わざわざ湧き水のところで急停車した事、私が湧き水を飲んでいたと思いこんでいた事、そして空のペットボトルを用意していたという事を考えると、湧き水マニアだったのでしょうかね?

蓼喰う虫も好き好きという諺がありますが、趣味というものはおよそ他人には理解し難い事もあるのだなぁと実感。まぁ、向こうも「こんな道をワザワザ自転車で登るなんて・・・余程お金に苦労しているのね」と思っていた事でしょうね(笑)。

休憩も済んで出発。そこから先も結構な坂道が続きます。とは言え、筑波山近辺にはもっときつい坂なんてザラにあるし、まだまだ道幅は十分にあるしで、この先が険道だなんてまだまだ実感できません。

この辺りまでは楽しいサイクリング気分でした♪

いよいよヒルクライムだよ

更に進むことしばし。そんな楽しいサイクリング気分を打ち消してくれたのがこの看板。

小型車以外通行不能の案内板

これまでは大型車通行止めと言ったややソフトな表現。実際のところ、対向車との行き違いを考えなければ物理的に大型車が通行不能ではありませんした。道幅もそれなりにあるし。(勿論、行き違いが出来ない時点で通行止めなんですけどね)

ただ、こちらの案内板は「小型車以外通行不能」という現実を意味しており、いよいよこの道の険しさを実感することになりましたね。

ますます気を引き締めて走る事しばし。やがて本日初めてのウイリー(前輪が浮く事)を体験。「こりゃぁ、いよいよ険道、基、激坂の始まりだぞ!」と思った次の瞬間。こんな光景が待ち受けていました。

コンクリート舗装

そして激坂&険道の始まり

道はそれまでのアスファルト舗装から、つくば道の激坂区間にもあったトレッドパターン(?)入りのコンクリート舗装です。理由は分からないですが、自分の中ではアスファルト→コンクリートと変化した時点で激坂のイメージがあります。

そしてここが「険道」である由縁もよくわかりました。道幅はこれまで以上に狭くなり、道の両脇には落ち葉やら折れた枝やら。更にその両側には深い側溝が。

単に自転車で登坂するだけならまだまだどうってことないですが。しかし、ここは歴とした県道。車も通ります。道幅から両脇の落ち葉&枯れた枝が積もった分を差し引くと、小型車一台分の幅くらいしかないのです。

クロスバイクだし、まず滅多にパンクしない頑丈なタイヤに換えているから道路脇の落ち葉やら折れた木々が積もった場所を走るのは、普段だったら気にしません。そして、スポーツ自転車のタイヤはパンクするものと思っているから、予備用チューブは常に2本持っています。だからパンク自体はイヤじゃない。でも、万一、こんなところで堆積物に埋もれたガラスの破片やらでパンクすると足場の確保も困難。予想できる危険は避けるべし。

こんな道で自分と、{追い越す or 行き違う車}がお互いに安全に通行するには、やはり自転車を漕いでる自分が道を譲るしかないと決意。

そして、写真を撮れるのはこれが最後かもしれないと覚悟して、この道が激坂やら険道と言われるまさにその部分を登り始めました。

こりゃぁ、凄いぞ!

登り始めてその激坂&険道ぶりを実感。まず、狭すぎます。そして危険な落ち葉&折れ枝、そしてその外側はもっと危険な深い側溝、前輪に体重をかけ続けていないとすぐに浮きそう。

傾斜と道の狭さはつくば道と同様ですが、更に悪いことにここは九十九折りの道。登坂の難しさは一直線だったつくば道の比ではなく。

これぞ激坂、そしてゴールへ

それでも前輪に体重をかけながらもどうにか登っていると、更に傾斜は急に。そして後方から車の音がしました。こんな激坂で止まったら次に発進するのは容易じゃないのですが、ここは安全第一で停車。

そして、ここからはいよいよインナーローを使わないと登れないと実感。発進してすぐにリアを1速に。

以降は車が通る度に自転車を停めて、安全確認の上発進を数回繰り返し。「こんな酷道をわざわざ車で登ってくるおまいら、どっか変だぞ?ちょっと迂回すれば安全&楽に登れる道がじゃないか!実際、下ってくる車はいないだろう?そんなに急なんだから。車と違ってこちとら、停まったら後の発進が大変なんだぞ!」と、心の中で愚痴をいいつつも、漕ぎ続ける事しばし。

ええ、勿論!そんな道を自転車で登っている自分の方が255倍くらい変なんですけどね(笑)。

やがて道の傾斜は緩やかで幅も広くなり。コンクリートの舗装は相変わらずですが、呼吸を整えつつどうにか風返し峠へと到着したのでした。

風返し峠

感想

登り切った時は大変でしたよ。風返し峠に着くなり、ヘルメットとヘルメット用インナーを脱ぎ捨て、自転車をガードレールに立てかけて。座る場所もないので立ったまま「はぁはぁはぁはぁ、ぜぃぜぃぜぃぜぃ」しつつ、水をがぶ飲みしてました。

この道のために不動やらそこからのつつじヶ丘は、フロントインナーとリアローは禁止。喉が渇けば走行しながら水分補給。走力もないので心臓バクバクも呼吸が乱れる事もありませんでした。

しかしこの道のコンクリート区間(およそ700メートル程度)は、そんな余裕は全くなし。普段は風返し峠まで来た場合、その後の予定がなければなんとなくつつじヶ丘に登っていましたが、今日ばかりはその気も起きず。

とにかく疲れた&汗かいた&運動した〜、って感じ。運動ってのは本来こうでなくちゃね。険道、基い、県道42号線を意識するあまり、こういうのを忘れていたなぁ〜。

登りきって思った事は、やっぱり「楽しかった」という事。この道は険しさやら登る事の大変さが強調されがちではありますが。しかし、酷道・険道・激坂なのは後半の700メートル弱だけ。残りの大半は道幅もそこそこにあり、様々な景色を堪能しての楽しいサイクリングロードだったのですから。

とは言っても、ワザワザ登る道ではないと思います。迂回するルートがありますし。少なくとも他人様にはけしてお薦めできないですね〜。


庶民チャリダー

inserted by FC2 system